介護のお金を親の資産から出せないとき、どうするか
介護は始まった時点でお金がかかります。ところが親の判断能力が下がっていると、親名義の預金から払えないことがあります。ここでは、確認する順番、立て替えるときに残しておく記録、公的な相談先、住まいを資金化する選択肢を整理します。制度の運用は金融機関や自治体によって異なるため、最後は窓口で確認してください。
まず確認する順番
お金の出しどころを探す前に、いまどの状態にあるかを確認します。全国銀行協会が公表している「金融取引の代理等に関する考え方」は、本人の認知判断能力と代理権の有無で状況を分けています。
| いまの状態 | 親の口座からの支払い | 次の一手 |
|---|---|---|
| 本人に判断能力がある | 本人の手続きでできます | 代理人の届出や任意後見、家族信託など、将来の備えを検討できる段階です |
| 任意代理人の届出がある | 代理での取引ができる場合があります | 届出の範囲で対応できるかを銀行に確認します |
| 成年後見人などがいる | 後見人が手続きします | 支払いと精算は後見人を通して行います |
| 代理権がない | 極めて限定的な対応と位置づけられています | 本人のための支出だと示せる資料を持って銀行に相談し、並行して申立てを検討します |
出典:全国銀行協会 金融取引の代理等に関する考え方(2021年2月18日)の内容を要約。会員各行に一律の対応を求めるものではないとされており、扱いは金融機関によって異なります。
成年後見の申立てから終局までの期間は、最高裁判所の統計では2か月以内が約71.1%、4か月以内が約93.8%です。その間の支払いをどうするかを、申立てと同時に決めておく必要があります。
立て替えるときに残しておくこと
実際には、当面の費用を子が立て替える形になることが少なくありません。あとで精算する場面や、相続が起きたあとの話し合いで根拠が必要になるため、次を残しておくと説明がしやすくなります。
- 領収書と請求書:医療費、施設の利用料、介護サービスの自己負担分など、本人のための支出だと分かるもの。
- 支払った経路の記録:立て替えた人の口座からの振込明細など、誰が払ったかが分かるもの。
- 一覧表:日付・内容・金額・支払った人を並べた簡単な表。銀行や家庭裁判所に事情を説明するときにも使えます。
全国銀行協会の考え方には、代理権のない親族からの払い出し依頼について、本人の医療費等の支払い手続きを親族等が代わりにする行為など、本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、依頼に応じることが考えられると書かれています。裏を返せば、本人のための支出であることを示せるかどうかが分かれ目になります。
立替えは「必ず精算できる」ものではありません
精算できるかどうかは、その時点で口座から出金できる状態か、相続人の間で合意ができるかによって変わります。金額が大きくなりそうな場合は、早い段階で専門家や家庭裁判所の窓口に相談してください。
公的な相談先と使える仕組み
民間のサービスを検討する前に、公的な窓口を確認しておくと選択肢が整理できます。全国銀行協会の考え方でも、銀行の連携先として次のような機関が挙げられています。
- 地域包括支援センター:地域の高齢者の保健医療・介護等に関する総合相談窓口です。介護保険の申請やサービスの組み立ての相談先になります。
- 社会福祉協議会の日常生活自立支援事業:判断能力に不安のある方を対象に、日常的な金銭の管理等を行う事業です。
- 権利擁護支援の地域連携ネットワークの中核機関:後見制度の利用相談などを担う機関として挙げられています。
あわせて、公的な負担軽減の仕組みも確認します。介護保険にも医療保険にも、自己負担が高額になったときに払い戻しを受けられる制度があります。対象になるかどうかや上限額は所得や世帯の状況によって変わるため、市区町村の窓口や加入している保険の窓口で確認してください。当サイトの高額療養費の計算と介護費用シミュレーターで、おおよその負担の見当をつけられます。
住まいを資金化する選択肢
年金と預金では足りない場合、自宅を資金に換えられるかが次の論点になります。判断能力の状態によって、できることが変わります。
| 方法 | 住み続けられるか | 判断能力が不十分な場合 |
|---|---|---|
| 売却 | 住み替えが必要です | 成年後見人が居住用不動産を処分するには家庭裁判所の許可が必要です |
| 賃貸に出す | 住み替えが必要です | 管理や契約を誰が行うかを決めておく必要があります |
| リースバック(売却して賃借する) | 賃貸として住み続けられる形が一般的です | 売却にあたるため、上と同じ制約がかかります |
| リバースモーゲージ(自宅を担保に借りる) | 住み続けられる形が一般的です | 契約時に本人の意思確認が必要です。取扱いの条件は金融機関によって異なります |
※いずれも条件は事業者・金融機関によって異なります。当サイトのリバースモーゲージの試算で、借入可能額と返済のイメージを確認できます。
判断能力があるうちでなければ選べない方法があるという点が重要です。家族信託や任意後見を含め、選択肢の幅は「まだ元気なうち」が最も広くなります。
いま何をすればよいか
- 1. 毎月いくら足りないかを数える:介護保険料、サービスの自己負担、施設に入るなら居住費・食費まで含めて概算します。自治体別の介護保険料と自治体別の老人ホーム・介護施設で、住んでいる市区町村の水準を確認できます。
- 2. いま親の口座から払えるかを確認する:取引のある銀行に、代理人の届出や当面の支払いについて相談します。
- 3. 公的な窓口に相談する:地域包括支援センターに、介護サービスと金銭管理の両面で相談します。
- 4. 足りない分の出しどころを決める:立替え、資産の取り崩し、住まいの資金化のどれを使うかを、家族で共有しておきます。
口座が動かせなくなる前後で何が変わるかは、親の預金が下ろせなくなるときで詳しく整理しています。制度の選び方は成年後見制度と家族信託は何が違うかをご覧ください。
よくある質問
Q. 子が立て替えた介護費用は、あとで親の口座から精算できますか?
A. 精算できるかどうかは、その時点で親の口座から出金できる状態かによって変わります。成年後見人が選任されていれば後見人が支払いや精算を行います。代理権のない家族が精算を受けるには銀行の判断が必要になるため、いつ・何に・いくら使ったかを領収書とあわせて記録しておくことが実務上の備えになります。相続が起きたあとの遺産分割で立替金が問題になることもあるため、記録は残しておいてください。
Q. 急ぎの入院費が払えないときはどうすればよいですか?
A. 全国銀行協会の考え方では、医療費等で至急の支払いが必要な場合には審判前の保全処分を活用することも考えられる、とされています。また、認知判断能力が低下した本人との取引についても、手続きが完了するまでの間などにやむを得ず行う場合は、本人のための費用の支払いであることを確認するなどしたうえで対応することが望ましいとされています。まずは請求書など本人のための支出だと示せる資料を持って、取引のある銀行と地域包括支援センターに相談してください。
Q. 親の家を売って介護費用にあてることはできますか?
A. 本人に判断能力があれば本人が売却できます。判断能力が不十分になっている場合、成年後見人が居住用不動産を処分するには家庭裁判所の許可が必要です。売却以外に、自宅に住み続けながら資金化する方法が案内されることもありますが、契約の条件は事業者によって異なります。売却・賃貸・リースバックのいずれも、費用と手取りを試算してから比較してください。
Q. 介護にいくらかかるのか、先に見当をつける方法はありますか?
A. 毎月の負担は、介護保険料と、サービスを使ったときの自己負担、施設に入る場合は居住費や食費などで構成されます。当サイトでは市区町村ごとの介護保険料と、施設の数や定員を公表データから掲載しています。金額の目安を出したうえで、不足する分をどう用意するかを考える順番が現実的です。