社会保険の基礎知識:健康保険・厚生年金の仕組みと保険料の計算方法
給与明細を見ると「健康保険料」「厚生年金保険料」「雇用保険料」などが天引きされていますが、それぞれが何のためのものか、どう計算されているかを正確に把握している会社員は少ないかもしれません。社会保険は老後・病気・失業・労働災害など人生のリスクに備える仕組みです。この記事では社会保険4種類の概要・保険料の計算基準となる標準報酬月額・扶養に入れる条件・転職時の切り替えまでを体系的に解説します。
社会保険4種類の概要
広義の「社会保険」には以下の4種類があります。会社員はこれらすべてに加入します(労災保険は保険料全額会社負担)。 2023年10月から社会保険の適用拡大により、従業員51人以上の企業でも短時間労働者の加入が義務化され、さらに2024年10月からは51人以上に拡大されました。
- 健康保険:病気・けがの医療費の一部を負担。通常の受診は3割の自己負担で残り7割を保険から支給
- 厚生年金保険:老後の年金・障害年金・遺族年金を保障。国民年金に上乗せする2階建て構造
- 雇用保険:失業時の給付・育児休業給付金・教育訓練給付金などを提供
- 労災保険(労働者災害補償保険):業務上・通勤途上の病気・けがを補償。保険料は全額事業主負担
社会保険への加入は会社の義務
常時1人以上の従業員を雇う法人は、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられています。「うちは加入できない」と言う会社は法令違反の可能性があります。
標準報酬月額とは——保険料の計算基準
健康保険・厚生年金の保険料は、標準報酬月額をベースに計算されます。標準報酬月額とは、実際の月給を一定の等級表(1〜50等級)に当てはめた金額です。
標準報酬月額に含まれる報酬
- 基本給・役職手当・職務手当・精皆勤手当
- 通勤手当・住宅手当・食事手当
- 残業代・深夜手当(固定の場合)
標準報酬月額に含まれない報酬
- 賞与(ボーナス)——別途「標準賞与額」として計算
- 臨時に支払われる賃金(結婚祝い金など)
定時決定(算定基礎届)
標準報酬月額は毎年4・5・6月の実際の報酬をもとに見直され(定時決定)、9月から翌年8月まで適用されます。4〜6月に残業が多いと標準報酬月額が上がり、保険料が増えることを覚えておいてください。
保険料の会社と本人の負担割合
社会保険料の多くは、会社と本人で折半(半分ずつ)して負担します。
- 健康保険:会社と本人が折半(保険料率は組合や協会けんぽによって異なる)
- 厚生年金:会社と本人が折半(保険料率は18.3%固定、本人負担は9.15%)
- 雇用保険:本人と会社が負担(本人の負担割合は会社より少ない)
- 労災保険:全額会社負担(本人負担なし)
会社が折半しているのは大きなメリット
自営業者(国民健康保険・国民年金)は保険料を全額自己負担しますが、会社員は会社が半分を負担しています。この点は会社員の社会保険の大きなメリットです。
健康保険証の使い方と3割負担の仕組み
病院や薬局で健康保険証(またはマイナ保険証)を提示すると、通常は医療費の3割を自己負担し、残りの7割を健康保険が負担します。
自己負担割合
- 就学前(6歳未満):2割
- 6歳〜69歳:3割
- 70〜74歳:2割(現役並み所得者は3割)
- 75歳以上(後期高齢者医療):1割(現役並み所得者は3割)
高額療養費制度
1か月の自己負担額が一定額を超えた場合、超過分が払い戻される「高額療養費制度」があります。上限額は年収によって異なりますが、例えば年収400〜770万円の方は概ね1か月8〜9万円程度が上限です。事前に「限度額適用認定証」を取得すると、窓口での支払い自体を上限額にとどめられます。
厚生年金と国民年金の違い(2階建て構造)
日本の公的年金は「2階建て」構造になっています。
1階:国民年金(基礎年金)
20歳以上60歳未満のすべての人が加入する基礎年金です。40年間納付した場合に満額の老齢基礎年金を受け取れます(金額は毎年改定)。
2階:厚生年金(報酬比例部分)
会社員・公務員が加入する上乗せ年金です。在職中の報酬・加入期間に応じて年金額が決まります。報酬が高いほど・加入期間が長いほど将来の年金が増える仕組みです。会社員は厚生年金に加入することで、自動的に国民年金にも加入(第2号被保険者)となります。
転職・退職時の年金手帳
転職時に年金手帳(または基礎年金番号通知書)が必要になります。紛失した場合はマイナポータルや年金事務所で再発行できます。
扶養に入れる条件(年収130万円未満)
配偶者や親族を健康保険の「被扶養者」にできる条件があります。扶養に入ると、扶養される側は保険料を支払わずに健康保険が使えます。
主な条件
- 年収130万円未満(60歳以上または障害者は180万円未満)
- 日本国内に住所がある
- 被保険者の年収の2分の1未満の収入である
- 被保険者と生計を同じくしている(別居の場合は仕送り等が必要)
130万円の壁は収入全体で判断
130万円は「見込み収入」で判断されます。交通費・残業代を含む総支給額で計算するため、月額10万8,334円(年収130万円÷12)を超える月が続く場合は扶養から外れる可能性があります。
転職時の社会保険の切り替え
転職する際、前職の社会保険から新職場の社会保険への切り替えが必要です。手続きを怠ると保険証が使えない空白期間が生じる可能性があります。
転職先への入社が決まっている場合
- 前職の退職と同時に健康保険・厚生年金の資格喪失
- 新職場入社日に新たな社会保険に加入(会社が手続き)
- 1日でも空白期間があると、その日の保険が未加入になる
退職後に空白期間がある場合
- 任意継続:退職後2年間、前職の健康保険を継続できる(保険料は全額自己負担)
- 国民健康保険:市区町村の窓口で加入。保険料は前年の所得をもとに計算
- 親・配偶者の扶養に入る:収入要件を満たす場合は、被扶養者として加入できる
どちらが安いかは比較が必要
任意継続と国民健康保険のどちらが安いかは、前職の報酬・居住地・家族構成によって異なります。退職前に両方の保険料を試算して比較することをお勧めします。