定年後の再雇用・継続雇用制度の仕組みと給与・年金の関係
60歳定年後、多くの会社員は「再雇用」または「継続雇用」として65歳まで働き続けることになります。しかし定年後の給与は現役時代より大幅に下がることが多く、一方で年金は「在職老齢年金」の仕組みによって一部カットされる場合があります。本記事では高年齢者雇用安定法の仕組み、再雇用後の給与水準の実態、在職老齢年金の計算方法、高年齢雇用継続給付金の活用まで、定年前に知っておくべき知識を解説します。
高年齢者雇用安定法(65歳まで雇用確保が義務)
高年齢者雇用安定法(高齢法)により、事業主は65歳までの安定した雇用を確保することが義務付けられています(2013年改正で全面施行)。 厚生労働省の就労条件総合調査(2023年)によると、定年後の再雇用制度を設けている企業は約86%に上り、2025年には65歳定年・70歳就業機会確保の努力義務が本格化しています。
雇用確保措置の3択(いずれか1つを選択):
- 定年の引上げ:定年年齢を65歳(以上)に引き上げる
- 継続雇用制度の導入:定年後に希望する従業員を65歳まで雇用し続ける制度(再雇用制度・勤務延長制度)
- 定年制の廃止:定年制そのものをなくす
大多数の企業は「継続雇用制度(再雇用制度)」を選んでいます。つまり60歳定年後、希望すれば65歳まで嘱託・契約社員などの形で再雇用されます。
2021年改正:70歳まで就業機会確保が努力義務に
2021年4月から65歳以上70歳未満についても「就業機会の確保」が努力義務となりました。義務ではありませんが、継続雇用・業務委託契約・社会貢献活動への従事支援などの選択肢を設けることが求められています。
定年後再雇用での給与水準の実態
定年後再雇用での給与水準は、現役(定年直前)の給与と比べて大幅に低下するのが一般的です。
- 現役時の50〜70%程度が多い(厚生労働省の調査データより)
- 職種・役割が縮小されるケースが多い(管理職→一般職、専門業務→補助業務など)
- 賞与・退職金の扱いは会社によって異なる(再雇用後は賞与なし・退職金なしが多い)
給与が下がる主な理由は、①役職・責任の縮小、②有期雇用への変更、③賃金テーブルの違い(正社員から嘱託・パートへの変更)です。
再雇用条件は定年前に確認・交渉を
再雇用後の条件(給与・職務内容・勤務時間・勤務場所)は定年前に確認しておくことが重要です。一般的に定年6か月〜1年前に面談が行われます。このタイミングで希望条件の交渉が可能です。
同一労働同一賃金と定年後再雇用の最高裁判例
定年後再雇用者の待遇格差については、2020年以降の最高裁判例が重要な基準を示しています。
- 「長澤運輸事件」(2018年最高裁):定年後再雇用の賃金引下げは直ちに違法ではないが、手当のみの不支給は不合理になりうる
- 「ハマキョウレックス事件」(2018年最高裁):無事故手当・作業手当・給食手当などの不支給は不合理
- 「名古屋自動車学校事件」(2022年名古屋高裁):基本給を現役の60%に引き下げたことを「不合理」と判断
業務内容・責任が変わらないのに賃金を大幅カットする場合は「不合理な待遇差」として訴訟リスクがあります。正当な理由なく大幅に下げられた場合は弁護士や都道府県労働局への相談を検討してください。
在職老齢年金との関係(給与+年金で一定額超えると年金カット)
厚生年金に加入しながら給与を受け取っている60〜64歳(特別支給の老齢厚生年金対象者)または65歳以上の方は、「在職老齢年金」の仕組みにより、給与と年金の合計額が一定額を超えると年金の一部または全部が停止されます。
65歳以上の在職老齢年金(2022年4月改正後)
基準額:50万円(2024年度)
(標準報酬月額 + 直近1年の賞与 ÷ 12)+ 月額年金額 が50万円を超えると、超過分の1/2が年金から支給停止
計算例
月給25万円(賞与なし)、月額年金15万円の場合:
- 合計:25万円+15万円=40万円 → 50万円以下なので停止なし(全額支給)
月給30万円、月額年金25万円の場合:
- 合計:30万円+25万円=55万円 → 50万円超過分5万円の1/2=2.5万円が停止
- 受け取れる年金:25万円−2.5万円=22.5万円
2022年4月改正で基準額が引き上げられた
改正前は47万円(60〜64歳は28万円)でしたが、2022年4月から60〜64歳も含めて50万円に統一され、年金停止が起きにくくなりました。給与水準が低い再雇用者は影響を受けにくくなっています。
高年齢雇用継続給付金の計算方法
60歳以降も働き続け、給与が60歳時点の75%未満に低下した場合、雇用保険から「高年齢雇用継続基本給付金」が支給されます(65歳まで)。
支給条件
- 60歳以上65歳未満で雇用保険に加入していること
- 60歳時点と比べて現在の給与(みなし賃金)が75%未満に低下していること
- 雇用保険の被保険者期間が5年以上あること
支給額の計算
給与が60歳時点の61%以下 → 現在の月給 × 15%
61%超75%未満の場合は支給率が段階的に低下する(0〜15%の範囲)
申請はハローワークで行います(会社経由が一般的)。給付は最長5年間受け取ることができます。給与低下が大きいほど支給額が増えるため、再雇用後の生活設計に活用できます。
65歳以降の就業選択肢
65歳で継続雇用の雇用確保義務期間が終了した後の選択肢を整理します。
- 同じ会社で継続(努力義務の範囲):2021年以降、70歳まで就業機会確保が努力義務化。会社が制度を設けていれば継続可能
- 別の会社・業界への転職:シニア向け求人(ハローワーク・シルバー人材センター・シニアに特化した転職サービス)を活用
- 独立・フリーランス:専門スキルを活かして業務委託契約。社会保険は国民健康保険・国民年金(または厚生年金任意加入)に切り替え
- シルバー人材センターへの登録:地域の軽作業・専門的業務を短時間で担う。月10〜20万円程度の収入目安
65歳から老齢年金を受け取りながら働く場合は在職老齢年金の仕組みに注意が必要です。年金を繰り下げ受給(70歳まで最大42%増)するか通常受給するかの判断は、個人の健康状態・収入状況により異なります。