在宅勤務・テレワークの経費精算と確定申告【通信費・光熱費の計算方法】
テレワーク(在宅勤務・リモートワーク)が普及した一方で、「自宅の通信費・電気代が増えたのに会社に請求できない」「そもそも経費として認めてもらえるかわからない」という悩みを持つ会社員は多いです。テレワークの経費精算は法律で細かく定められているわけではなく、実務上は会社ごとの規程に委ねられている部分が大きいです。会社への請求方法、社内規程との関係、確定申告での「特定支出控除」、按分計算の方法まで整理して解説します。
会社へのテレワーク費用請求(通信費・光熱費の按分)
テレワークで発生する主な費用は、通信費(インターネット代・スマートフォン通話料)と光熱費(電気代)です。ただし、これらを会社が負担するかどうかは法律で一律に決まっているわけではなく、各社のテレワーク規程・経費精算規程によります(後述)。ここでは、精算する場合に業務使用分をどう計算するかを整理します。
国税庁が示す按分計算の目安
国税庁は「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」(令和3年1月公表・令和8年4月1日更新)で、業務使用部分の計算式を示しています。この式で計算した金額を会社が支給する場合は、給与として課税しなくて差し支えないとされています。
通信費の業務利用按分 = 1か月の通信費 × 業務利用日数 ÷ 月の日数 × 1/2
例:月5,000円の通信費で22日テレワーク → 5,000 × 22/30 × 1/2 ≒ 1,833円
電気代の業務利用按分 = 1か月の基本料金・電気使用料 × 業務に使用した部屋の床面積 ÷ 自宅の床面積 × 在宅勤務日数 ÷ 該当月の日数 × 1/2
面積按分まで考えると複雑になるため、会社によっては定額手当で代替することが多い
会社に実費精算を求める場合は、上記の計算式で算出した金額と領収書・明細書を提出します。
経費精算は会社の規程で決まる——確認すべきポイント
テレワークの経費精算で最も重要なのは、「何が対象で、どう精算されるか」は法律で一律に決まっているわけではなく、各社のテレワーク規程・経費精算規程に委ねられているという点です。同じ在宅勤務でも、会社によって精算の有無・方式・上限額はまったく異なります。
確認すべき規程の内容
- 精算方式:実費精算(按分計算)か、在宅勤務手当(定額)か、どちらも用意していないか
- 対象費目:通信費・電気代・消耗品費のうち、どこまでが対象か
- 上限額・支給額:定額手当の場合は月額いくらか、実費精算の場合は上限があるか
- 申請方法・締め日:申請システムの有無、月次か都度申請か
規程は就業規則・テレワーク規程・経費精算規程として社内に明文化されているのが一般的です。イントラネットや人事部への確認で入手できます。規程が存在しない、または内容が不明確な場合は、後述する「会社が経費精算に応じない場合の対処」を参考にしてください。
入社・異動時は規程の有無を早めに確認
テレワークの経費精算規程は会社によって整備状況の差が大きい分野です。転職や部署異動でテレワーク頻度が増える場合は、早めに人事担当者へ「テレワークの経費精算規程はありますか」と確認しておくと、後からトラブルになりにくくなります。
経費精算の実務:対象費目・申請方法・必要書類
テレワークの経費精算は「何が対象になるか」「どの方式で精算するか」で実務が大きく変わります。会社への請求をスムーズに進めるために、費目ごとの扱いと精算方式の違いを整理します。
経費精算の対象になりやすい費目
- 通信費:自宅のインターネット回線料・業務利用分のスマートフォン通話料
- 電気代:パソコン・照明・空調など業務利用エリアの按分分
- 消耗品費:プリンター用紙・トナー・文具など業務で使用する事務用品
- 什器・備品:会社が指定・貸与するモニター・チェア・デスク等(購入か貸与かで会計処理が異なる)
精算方式の比較
| 方式 | 特徴 | 従業員側の手間 |
|---|---|---|
| 実費精算(按分計算) | 通信費・電気代を計算式で按分し、明細書とあわせて申請。非課税 | やや多い(毎月の申請・明細保管) |
| 在宅勤務手当(定額) | 毎月一定額を給与と合わせて支給。使わなくても返還不要な渡切りの手当は給与として課税される | 少ない(申請不要のことが多い) |
| ハイブリッド型 | 基本は定額手当+高額な什器購入時のみ実費申請を併用 | 中程度 |
申請の流れと必要書類
多くの会社では「月末締め・翌月給与での精算」というサイクルで運用されています。一般的な申請の流れは次のとおりです。
- 社内の経費精算システム(またはExcelフォーマット)にテレワーク日数・按分計算結果を入力
- 通信費・電気代の請求書(検針票)のコピーまたはスキャンデータを添付
- 上長の承認を経て、翌月給与または別立てで振込
- 什器購入の場合は事前申請制(会社の許可を得てから購入)としている会社が多い
按分計算の根拠は保存しておく
請求書・検針票・業務日誌(テレワークを行った日付の記録)は、会社への申請だけでなく、後述する確定申告の「特定支出控除」を検討する際にも必要になります。少なくとも過去1年分は保管しておくと安心です。
会社が経費精算に応じない場合の対処
テレワーク費用の精算を会社が拒否・無視した場合、以下の選択肢があります。
- 就業規則・テレワーク規程を確認する:会社のルールにテレワーク費用の負担規定があるか確認する
- 人事・労務担当者に書面で申し入れる:口頭より書面(メール)で履歴を残す
- 確定申告で「特定支出控除」を使う:条件を満たせば自分で確定申告して一部控除できる(後述)
- テレワーク手当の導入を提案する:労使交渉・組合交渉で定額手当の制度化を求める
費用負担は法的に義務化されていない
現時点で、テレワーク費用を会社が負担することは法律上の義務ではありません。ただし業務遂行に必要な費用を従業員に一方的に負担させることは、労働条件の不利益変更として問題になる場合があります。会社との交渉が平行線になった場合の外部窓口については、労働組合のない会社でのトラブル対処法で個人加盟ユニオンやあっせん制度を解説しています。
確定申告での「特定支出控除」
給与所得者は通常、実際にかかった経費を控除することができませんが、「特定支出控除」という制度を使うと一定の業務関連費用を所得から控除できます(租税特別措置法57条の2)。
特定支出控除が使える条件:
- 特定支出の合計額が「給与所得控除額の1/2」を超えること
- 会社(給与支払者)が業務に必要と証明した支出であること(「特定支出に関する証明書」が必要)
控除額 = 特定支出合計 − 給与所得控除額 × 1/2
給与所得控除額(例):年収600万円 → 控除額164万円 → 1/2は82万円。特定支出が82万円超の部分が控除
特定支出控除の対象と計算方法
特定支出として認められる費用の種類:
- 通勤費:会社から支給される通勤手当で賄えない実際の通勤費
- 職務上の旅費:業務上の出張旅費で会社精算されない部分
- 転居費:転勤等による転居費用
- 研修費:職務遂行に必要な技術・知識習得のための研修費(会社が認めるもの)
- 資格取得費:業務に直接必要な資格の取得費用(会社が認めるもの)
- 帰宅旅費:単身赴任者の帰宅交通費
- 図書費・衣服費・交際費:職務に必要な書籍代・制服代・業務上の接待費(各上限あり)
テレワークの通信費は「職務上の旅費」ではありませんが、業務に必要と会社が証明すれば「職務に直接必要な図書費等」に準じて申告できる余地があります。ただし会社の証明書が必須です。
控除額のハードルが高い
給与所得控除の1/2を超える特定支出が必要なため、年収600万円以上の方でも82万円超の特定支出がなければ控除できません。テレワーク費用のみでこの水準に達するケースは少なく、主に研修費・資格取得費と組み合わせると有効です。
在宅勤務手当の税務上の扱い
会社から受け取る「在宅勤務手当」の税務上の扱いは、その性質によって異なります。
- 実費精算型(領収書提出・按分計算):原則として非課税。業務のために必要な費用と認められる
- 定額手当型(渡切り):金額の大小にかかわらず給与所得として課税される。使わなかった分を会社に返す必要がないものは、国税庁のFAQで課税対象と明記されている
国税庁の「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」(令和3年1月公表・令和8年4月1日更新)は、在宅勤務に通常必要な費用の実費相当額を精算する方法で支給する金銭は給与として課税する必要がないとする一方、使わなくても返還する必要がない在宅勤務手当(同FAQは毎月5,000円を渡切りで支給する例を挙げています)は給与として課税する必要があるとしています。金額の上限で非課税かどうかが決まる仕組みではありません。課税対象の手当が含まれると手取りにも影響するため、実際の受取額を確認したい場合は給与手取り計算機で試算できます。
自宅を一部事業利用する場合の按分計算
副業・フリーランス収入がある会社員が自宅を事業にも使用する場合、賃料・光熱費の一部を経費として計上できます(確定申告の事業所得・雑所得として)。
- 面積按分:仕事専用スペース(または使用割合)÷ 自宅全体の面積
- 時間按分:1日のうち業務に使った時間 ÷ 24時間(または16時間)
- 両方を組み合わせて按分することも可能
按分の根拠資料(間取り図・業務日報等)を保存しておくことで、税務調査の際に説明できるようにしておきましょう。共働き世帯でテレワークをしている場合、手当の課税・非課税の違いが世帯全体の手取りに影響することもあります。配偶者の年収を含めた世帯の手取りは世帯手取り最適化シミュレーターで確認できます。
よくある質問
Q. テレワークの経費精算の相場はいくらですか?
A. 金額は会社の規程によって異なります。国税庁のFAQでは、実費相当額を精算する方法で支給する金銭は給与として課税しないとされる一方、使わなくても返還不要な「渡切り」の在宅勤務手当(例として毎月5,000円)は給与として課税する必要があるとされています。
Q. リモートワークの経費精算に領収書は必要ですか?
A. 実費精算(按分計算方式)の場合は、通信費・電気代の請求書や明細書の提出を求められるのが一般的です。定額の在宅勤務手当の場合は、通常は領収書の提出なしで支給されます。会社の経費精算規程を確認してください。
Q. 在宅勤務手当は非課税ですか?
A. 業務使用分を合理的に計算して精算する実費精算型は、国税庁の「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」で給与として課税する必要がないとされています。一方、使わなくても返還しなくてよい渡切りの定額手当は、金額の大小にかかわらず給与として課税する必要があると同FAQに明記されています(同FAQは毎月5,000円の渡切り支給を課税される例として挙げています)。
Q. 会社がテレワーク費用の精算に応じてくれません。どうすればいいですか?
A. まず就業規則・テレワーク規程に費用負担の定めがあるか確認し、書面で人事に申し入れましょう。テレワーク費用の会社負担は法律上の義務ではないため交渉が基本ですが、話し合いが進まない場合は個人加盟ユニオンや労働局のあっせん制度も選択肢になります。
Q. 在宅勤務の経費精算はどこまで会社に請求できますか?
A. 法律で対象範囲が一律に決まっているわけではなく、会社のテレワーク規程・経費精算規程によって異なります。通信費・電気代の業務利用分の按分計算が対象になることが多いですが、上限額や対象費目は会社ごとに差があるため、まず社内規程を確認することが基本です。