有給休暇の正しい取り方と会社に拒否された場合の対処法
「有給を申請したら上司に却下された」「なんとなく取りにくい雰囲気がある」——こうした悩みを抱える会社員は少なくありません。しかし有給休暇は労働基準法が保障する労働者の権利であり、会社が一方的に拒否することは原則できません。この記事では、有給休暇の法的根拠、会社が使える「時季変更権」の条件、2019年改正で義務化された年5日取得ルール、退職前の有給消化の権利まで、知っておくべき知識を体系的に解説します。
有給休暇の法的根拠(労働基準法39条)
年次有給休暇(有給)は、労働基準法第39条に定められた労働者の権利です。会社の規則や上司の意向に関係なく、法律が付与を義務付けています。 厚生労働省の就労条件総合調査(2023年)によると、年次有給休暇の取得率は62.1%と過去最高を記録しましたが、依然として4割近くの労働者が十分に取得できていない状況です。
有給休暇の付与日数
- 入社6か月後:10日(週5日以上勤務の場合)
- 1年6か月後:11日
- 2年6か月後:12日
- 3年6か月後:14日
- 4年6か月後:16日
- 5年6か月後:18日
- 6年6か月以上:20日(上限)
パートタイムや週3日勤務などの短時間労働者にも、勤務日数に応じた比例付与が行われます。
有給取得に理由は不要
有給休暇を申請する際、理由を告げる法的義務はありません。「私用のため」で十分です。会社が理由を執拗に問い詰めることも、適切ではありません。
時季変更権とは——会社が拒否できる条件
会社には時季変更権(労働基準法39条5項)という権限があり、「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、希望した日から別の日への変更を求めることができます。ただし、これは「拒否」ではなく「変更の要求」です。
時季変更権が認められる例
- その日に他に代替できる人員がおらず、業務が完全に停止してしまう
- 繁忙期中で変更先の日程が業務的に合理的
時季変更権が認められない例
- 「皆が忙しいから」という漠然とした理由
- 「年休を取る文化がない」という社内慣習
- 繁忙期であっても、十分な人員がいる場合
- 退職日が決まっており、もはや「変更先の日」が存在しない場合
「繁忙期は有給禁止」は違法の可能性がある
就業規則に「繁忙期は有給取得禁止」と書いてあっても、その規定自体が労働基準法に反している場合は無効です。繁忙期であることと、時季変更権の要件を満たすかどうかは別問題です。
年5日の時季指定義務(2019年改正)
2019年4月施行の労働基準法改正により、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、会社は年5日以上の有給を取得させる義務を負うようになりました。
会社の義務の内容
- 有給付与日から1年以内に、5日以上の有給を取得させなければならない
- 本人が自ら5日以上取得している場合は義務を履行したことになる
- 取得が5日に満たない場合、会社が取得日を指定する義務がある
違反した場合、会社には1人あたり30万円以下の罰金(労働基準法120条)が科される可能性があります。
年5日ルールを逆手に取る
「有給が取りにくい雰囲気」の職場でも、「年5日の義務があるので消化させてください」と会社に言える根拠になります。会社側も違反は避けたいため、この法令を持ち出すことで有給取得がしやすくなる場合があります。
退職前の有給消化——会社は拒否できない
退職時に残っている有給を全部消化したい、と希望する会社員は多いでしょう。結論として、退職前の有給消化は原則として会社は拒否できません。
なぜ拒否できないのか
時季変更権は「別の日に変更する」権利ですが、退職日が決まっている場合、変更先となる「別の日」が存在しません。そのため、時季変更権自体が行使できなくなるのです。
退職前の有給消化の進め方
- 退職日を有給残日数を考慮して設定する
退職の意向を伝える前に、有給残日数を確認し、消化に必要な日数を逆算して退職日を設定します。
- 退職届・有給申請を同時または直後に行う
退職届と有給申請は書面で残しておくことをお勧めします。口頭では後で「言った・言わない」になりかねません。
- 引き継ぎを有給消化前に完了させる
会社との関係を円満に保つためにも、引き継ぎを誠実に行うことが大切です。ただし、引き継ぎが終わらないことを理由に有給を拒否することは法的に認められません。
「有給の買い取りを提案された」場合
会社から「有給を取らずに買い取りましょう」と提案されることがあります。金銭的に合意できるなら問題ありませんが、強制はできません。また、在職中の有給買い取りは原則として違法(有給取得の機会を奪う)であり、退職時の未消化有給への買い取りは合法です。
有給残日数の確認方法
自分の有給残日数を正確に把握していない会社員は意外と多いものです。確認方法はいくつかあります。
- 給与明細:有給残日数が記載されている会社も多い
- 就業規則・社内システム:勤怠管理システムで確認できる場合がある
- 人事部・総務部への問い合わせ:直接確認する方法。会社には労働者への通知義務があります
有給の消滅時効は2年
有給休暇は付与から2年間有効です。2年間取得しなかった分は時効により消滅します。毎年の有給を計画的に消化するか、少なくとも残日数を把握しておくことをお勧めします。
有給を取れない場合の相談先
会社への直接交渉で解決しない場合は、外部機関への相談が有効です。
労働基準監督署
会社の所在地を管轄する労働基準監督署に申告することができます。申告を受けた労基署が会社に対して是正勧告を行うケースがあります。相談電話:0120-811-610(総合労働相談コーナー)
都道府県労働局の相談窓口
各都道府県の労働局にも「個別労働関係紛争解決制度」があり、あっせん(話し合いの仲介)を無料で利用できます。
弁護士・社労士への相談
有給拒否が度重なり、精神的苦痛を受けた場合や、損害賠償請求を検討する場合は弁護士への相談が適切です。法テラス(0570-078374)では費用立替制度があります。
相談前に記録を残しておく
有給申請と拒否のやりとり(日時・理由・担当者名)をメモしておくと、相談・申告の際に有力な証拠になります。メールやチャットでのやりとりはスクリーンショットを保存しておきましょう。