退職代行を使うと損害賠償される?有給は消化できる?即日退職・通知と交渉の違い・会社や家族への連絡
退職代行を使ったこと自体を理由に、会社が損害賠償を請求できるのか。裁判所の裁判例検索で調べたところ、請求が認められた裁判例は見つかりませんでした。会社が「退職代行を使ったのは引継ぎの放棄だ」と主張し、裁判所が退けた例はあります。即日退職・有給の消化・会社や家族への連絡・派遣や業務委託の場合を、e-Gov法令検索・厚生労働省・日本弁護士連合会・裁判所の公開資料で確かめた範囲で整理しました。
退職代行を使ったことを理由に、会社は損害賠償を請求できるのか?
裁判所の裁判例検索で全文のキーワードを「退職代行」にして調べると、2026年10月3日時点で2件がヒットしました。退職代行を使ったこと自体を理由に、損害賠償の請求が認められた裁判例は、その中にありませんでした。ヒットした2件のうち、損害賠償に関わるのは次の1件です。
| 事件 | 会社の主張 | 裁判所の判断 |
|---|---|---|
| 大阪地方裁判所 令和7年1月27日(令和5年(ワ)第9115号) | 元従業員の一人は退職代行サービスを利用して突如退職を申し出て、引継ぎ業務を放棄した | 退職の意思表示の方法は、引継ぎ義務の履行とは無関係。引継ぎ義務違反の主張は理由がない |
出典:裁判所 裁判例情報(courts.go.jp)の判決文、2026年10月3日確認。会社は元従業員2人に約1,171万円を請求しましたが、認められたのは在職中の競業行為による1万7160円だけで、退職代行の利用とは別の理由です。
この判決は、就業規則の引継ぎの定めを、退職者の職務に応じた合理的な引継ぎを求める訓示的な規定と読み、民法627条1項の「2週間の予告でいつでも退職できる」ことにも触れています。また、会社が「退職で運営に支障が出たことも損害だ」と主張した点には、会社自身の態勢整備の不備に由来するともいえる、と述べています。
ただし、これは1件の第一審判決です。裁判例検索にはすべての判決が載っているわけではなく、「請求されることはない」「必ず退けられる」とは言えません。厚生労働省のQ&Aは、期間の定めのある契約の途中退職でも、損害賠償は当然にされるわけではなく、会社に損害が生じているか、それが退職したことによるものかを検討して判断される、と説明しています。連絡せずに出社しなくなった場合の損害賠償の一般論は退職をバックレるとどうなるに書いています。
出典:厚生労働省「確かめよう労働条件」Q&A「長期契約を結んだものの、途中で退職した場合には損害賠償請求されますか?」、2026年10月3日確認。
退職代行を使えば、即日で辞められるのか?
「会社に行かなくなる日」と「雇用契約が終わる日」は別です。契約が終わる時期は、契約の種類で条文が分かれます。
| 契約 | 退職について条文が定めていること | 根拠 |
|---|---|---|
| 期間の定めなし | 申入れの日から2週間を経過すると終了 | 民法627条1項 |
| 期間の定めあり | やむを得ない事由があれば直ちに解除でき、その事由が一方の過失によるときは相手方への損害賠償責任がある | 民法628条 |
| 期間が1年超 | 契約の初日から1年を経過した日以後は、使用者に申し出ればいつでも退職できる(例外あり) | 労働基準法附則137条 |
出典:e-Gov法令検索(民法、労働基準法)、厚生労働省「確かめよう労働条件」Q&A、2026年10月3日確認。附則137条は、14条1項各号に規定する労働者を除きます。
辞スルの広告主のページの「次の日から会社に行かなくても大丈夫」は、出社しないことへの回答で、契約が終わる日を決めるものではありません。出社しない間を有給にするのか、欠勤にするのかは、次の節のとおり、有給の残り日数と会社とのやり取りで変わります。退職日の決め方や引き止められたときの断り方は退職の引き止めを断る方法で書いています。
有給は消化できるのか。伝えてもらうのと、交渉してもらうのは何が違うのか?
労働基準法39条5項は、有給休暇を労働者の請求する時季に与えるのが原則で、請求された時季に与えると事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季に与えることができる、と定めています。辞スルの広告主のページには、「有給休暇が残っているので消化してから辞めたいです」に対して「はい、大丈夫です」とだけ書かれています。会社が日数を争ったり、取得を認めなかったりした場合にどうなるかは、書かれていません。
ここで分かれるのが、「伝える」と「交渉する」です。誰が会社と有給の話をできるのかを、条文で並べると次のとおりです。
| 誰が | 会社に対してできること | 根拠 |
|---|---|---|
| 本人 | 有給を使う時季を自分で請求できる | 労働基準法39条5項 |
| 労働組合 | 組合員のために、使用者と交渉する権限がある | 労働組合法6条 |
| 弁護士 | 法律事務として、代理・和解などを取り扱える | 弁護士法72条 |
| 民間の退職代行 | 弁護士でも労働組合でもない者が、報酬を得て法律事件の代理・和解などを業として行うことは禁じられている | 弁護士法72条・77条 |
出典:e-Gov法令検索(労働基準法39条、労働組合法6条、弁護士法72条・77条)、日本弁護士連合会「隣接士業・非弁活動・非弁提携対策」、2026年10月3日確認。弁護士法77条は、72条に違反した者を2年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金としています。
弁護士法72条の条文は、弁護士でない者が報酬を得る目的で、法律事件に関する代理・和解などの法律事務を業とすることを禁じています。日弁連のページは、その趣旨を「弁護士ではない者が他人の法律事務に介入すると、法律秩序が乱され、国民の権利や利益が損なわれる」ためと説明しています。どの行為が「伝える」にとどまり、どこから「交渉」になるかを分ける線は、確かめた日弁連のページには書かれていませんでした。民間の退職代行では、日数や取得の可否をめぐって会社と条件を詰める役は頼めないと考えておくのが無難です。辞スルの運営は株式会社シーズで、弁護士でも労働組合でもありません。
民間の退職代行が法律事務に踏み込んだ例は、刑事事件にもなっています。東京地方裁判所は令和8年6月5日、弁護士資格がないのに法律事務の周旋を業としていた退職代行業者から、退職手続における代理などの委任を必要とする退職希望者85名の紹介を受けた弁護士法人に罰金150万円、代表弁護士に懲役1年6月(3年間執行猶予)を言い渡しています(判決文では当事者名が記号になっています)。弁護士・労働組合・民間の違いと費用は退職代行サービスの選び方で比べています。
出典:裁判所 裁判例情報(courts.go.jp)令和8年(わ)第10808号ほか、2026年10月3日確認。この判決で裁かれたのは弁護士側で、依頼した退職希望者ではありません。
会社が有給の取得を拒否した場合の対処は退職時の有給消化を拒否されたらに書いています。
会社や家族、転職先に連絡は行くのか?
辞スルの広告主のページには、「自分や親に会社から連絡は来ませんか?」に対して、「基本的に問題ありません。私たちから連絡しないよう強くお伝えいたします。稀に連絡が来てしまうことがあるようですが、無視して頂いて大丈夫です」と書かれています。会社に「連絡しないで」と伝えてもらえても、会社が連絡してこないとは限らない、という書き方です。
会社が本人や家族に連絡することを法律が禁じているかは、この記事では確かめていません。転職先への連絡については、確かめた資料に記載がありませんでした。会社の物の返却や、離職票・源泉徴収票など書類の扱いは退職をバックレるとどうなるの表に、退職届の書き方は退職届の書き方にまとめています。
派遣社員や業務委託の場合は同じか?
- 派遣社員:労働者派遣法2条2号は、派遣労働者を「事業主が雇用する労働者であつて、労働者派遣の対象となるもの」と定めています。雇用契約の相手は派遣元事業主で、退職の手続きも派遣元との契約で考えます
- 業務委託:労働基準法9条の「労働者」は、事業に使用される者で賃金を支払われる者です。実態が雇用でなければ民法627条の「雇用」の話にならず、契約書の解約の定めで決まります。民法651条は、委任ならいつでも解除できるが、相手方に不利な時期の解除はやむを得ない事由がない限り損害賠償の対象になる、と定めています
出典:e-Gov法令検索(労働者派遣法2条、労働基準法9条、民法627条・651条)、2026年10月3日確認。契約が雇用・委任・請負のどれにあたるかは、名称ではなく契約の内容で変わります。
辞スルの広告主のページ(lp.jisuru.com)の特定商取引法に基づく表記には「雇用に関わらず一律22,000円」と書かれています(公式サイトjisuru.comの表記は、正社員・契約社員22,000円、アルバイト18,000円)。ただし、派遣や業務委託に対応するかは、広告主のページから確かめられませんでした。申し込む前に、LINEの相談で確かめてください。
よくある質問
Q. 退職代行を使うと、会社から損害賠償を請求されますか?
A. 使ったこと自体を理由に請求が認められた裁判例は、裁判所の裁判例検索(全文キーワード「退職代行」)では見つかりませんでした。ヒットした民事の1件(大阪地方裁判所、令和7年1月27日)では、会社が「退職代行サービスを利用して突如退職を申し出た」ことを引継ぎ放棄だと主張しましたが、裁判所は退職の意思表示の方法は引継ぎ義務の履行とは無関係だとして退けています。ただし、裁判例検索にはすべての判決が載っているわけではなく、1件の第一審判決が他の事案を保証するものでもありません。請求が届いたときは、総合労働相談コーナーや弁護士に相談してください。
Q. 退職代行を使えば、その日のうちに辞められますか?
A. 民法627条1項は、期間の定めのない雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過すると終了すると定めています。辞スルの広告主のページにある「次の日から会社に行かなくても大丈夫」は、出社しないことについての説明で、契約が終わる日を決めるものではありません。出社しない間を有給にするか欠勤にするかなどは、会社との間で決まります。
Q. 退職代行を使えば、有給を全部消化できますか?
A. 辞スルの広告主のページには、「有給休暇が残っているので消化してから辞めたいです」に「はい、大丈夫です」と書かれています。一方、労働基準法39条5項は、有給休暇を労働者の請求する時季に与えるのが原則で、事業の正常な運営を妨げる場合は他の時季に与えることができる、としています。会社が日数や取得を争ったときの交渉は、弁護士でも労働組合でもない辞スルでは頼めません。
Q. 退職代行は、会社と交渉してくれますか?
A. 弁護士や労働組合なら、法律上、交渉ができる立場です(弁護士法72条、労働組合法6条)。辞スルは弁護士でも労働組合でもない民間のサービスで、退職の意思を会社に伝える手続きが中心です。弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を業として行うことを禁じています。どこまでが「伝える」で、どこからが「交渉」かは個別に判断されるため、損害賠償や未払い賃金の話になりそうなときは、弁護士に相談してください。
Q. 派遣社員や業務委託でも、同じように退職できますか?
A. 派遣社員は、派遣元事業主が雇用する労働者です(労働者派遣法2条2号)。雇用契約の相手は派遣先ではなく派遣元なので、退職の手続きも派遣元との契約で考えます。業務委託は、実態が雇用でなければ民法627条の「雇用」の話にならず、契約書の解約の定めで決まります。辞スルの広告主のページには、派遣や業務委託に対応するかの記載が見つからなかったため、申し込む前に確かめてください。
参考・出典
- e-Gov法令検索 - 民法(第627条、第628条、第651条)(2026年10月3日確認)
- e-Gov法令検索 - 労働基準法(第9条、第39条、附則第137条)(2026年10月3日確認)
- e-Gov法令検索 - 弁護士法(第72条、第77条)(2026年10月3日確認)
- e-Gov法令検索 - 労働組合法(第6条)(2026年10月3日確認)
- e-Gov法令検索 - 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(第2条)(2026年10月3日確認)
- 厚生労働省 確かめよう労働条件 - 途中で退職した場合の損害賠償(2026年10月3日確認)
- 厚生労働省 確かめよう労働条件 - 労働トラブルの相談先(2026年10月3日確認)
- 日本弁護士連合会 - 隣接士業・非弁活動・非弁提携対策(2026年10月3日確認)
- 裁判所 裁判例情報 - 大阪地方裁判所 令和7年1月27日 損害賠償等請求事件(2026年10月3日確認)
- 裁判所 裁判例情報 - 東京地方裁判所 令和8年6月5日 弁護士法違反ほか被告事件(2026年10月3日確認)
- 辞スル 広告主のページ(よくある質問、特定商取引法に基づく表記)(2026年10月3日確認)
※損害賠償の可否、有給の扱い、退職代行が行える範囲は、契約内容・就業規則・個別の事情で変わります。この記事は公開資料で確かめた範囲の一般的な説明で、個別の法的助言ではありません。会社から請求が届いたときや、有給・未払い賃金で争いになりそうなときは、総合労働相談コーナー、法テラス、弁護士会の法律相談センター、弁護士にご相談ください。