出産育児一時金は50万円|対象者・いつから・50万円未満だったら差額がもらえる・超えたら自己負担・直接支払制度と受取代理制度・申請の期限・健保組合の付加金
出産を控えた会社員の方(配偶者が会社員の方を含む)が、出産育児一時金を受け取るまでの流れを整理した解説です。令和5年4月以降の出産は、原則1児につき50万円です。病院の窓口で払う金額は、直接支払制度を使えば「出産費用−50万円」になり、費用が50万円より少なければ差額が戻ります。申請の期限は出産日の翌日から2年、会社の健保組合によっては付加金が上乗せされます。
金額と対象者(50万円と48.8万円)
健康保険法第101条は、被保険者が出産したときは、出産育児一時金として政令で定める金額を支給すると定めています。その金額を決めているのが健康保険法施行令第36条で、本文は48万8千円です。ただし書で、産科医療補償制度に加入しているなど一定の要件を満たす病院・診療所・助産所の管理下での出産と保険者が認めるときは、3万円を超えない範囲で保険者が定める額を加算するとしています。協会けんぽと厚生労働省は、この加算を含めた合計を50万円と案内しています。
| 出産の区分 | 1児につきの額 | 根拠 |
|---|---|---|
| 産科医療補償制度に加入する施設で、在胎週数22週以降の出産 | 50万円 | 施行令第36条(本文+ただし書の加算) |
| 在胎週数22週に達しなかった出産、または制度に未加入の施設での出産 | 48.8万円 | 施行令第36条本文 |
| 双子など多胎児 | 人数分 | 協会けんぽの案内 |
出典:健康保険法施行令第36条、協会けんぽ「出産育児一時金」(2023年4月1日以降の出産の額)、厚生労働省「直接支払制度実施要綱」。2026年10月3日確認。厚生労働省によると、令和5年4月から、それまでの原則42万円が原則50万円に引き上げられました。
対象者は、出産した時点で日本の公的医療保険に加入していて、妊娠4か月(85日)以上で出産した人です。厚生労働省は、これを満たせば、出産方法・出産場所を問わず対象としています。協会けんぽは、生産(早産)、死産、人工妊娠中絶も含めています。出産するのが被保険者本人なら「出産育児一時金」(法第101条)、被扶養者の配偶者なら「家族出産育児一時金」で、後者は被保険者に支給されます(法第114条)。
帝王切開など、保険が適用される分娩になった場合も、出産育児一時金の対象です。その分の医療費が高額になるときは、高額療養費の対象にもなります(協会けんぽの案内)。
受け取り方と申請(場面ごとの表)
厚生労働省は、出産育児一時金の受け取り方を「直接支払制度」「受取代理制度」「償還払い制度」の3つに分けています。病院が保険者に代わって請求するか、本人がいったん全額を払って後で請求するかの違いです。
| 場面 | 受け取り方 | 申請 |
|---|---|---|
| 直接支払制度を使う | 一時金は病院に直接支払われる。窓口で払うのは、費用が50万円を超えた分だけ | 病院が退院までに用意する合意文書に同意。保険者への一時金の申請は病院が代行 |
| 受取代理制度を使う | 病院が本人に代わって一時金を受け取る。超えた分は窓口で払う | 出産予定日まで2か月以内に、病院の記名・押印を受けた申請書を保険者へ。厚生労働省に届出をした一部の施設のみ |
| どちらも使わない(償還払い) | 退院までに費用の全額を病院に払い、後から一時金が本人に支給される | 出産後に、本人が保険者へ支給申請 |
| 配偶者が被扶養者 | 家族出産育児一時金として、被保険者(会社員本人)に支給される | 被保険者の保険者へ。申請書に出産した被扶養者の氏名・生年月日を書く(施行規則第97条) |
| 退職後6か月以内の出産 | 退職前の保険者から受けられる場合がある | 退職日の前日まで被保険者期間が継続して1年以上あることが条件(法第106条) |
出典:厚生労働省「出産育児一時金等について」・「直接支払制度実施要綱」、協会けんぽ「出産育児一時金」、健康保険法第106条・施行規則第97条。2026年10月3日確認。直接支払制度は、導入が病院に義務付けられているわけではなく、使うかどうかは十分な説明のうえ合意により本人が選ぶと、実施要綱に書かれています。
償還払いのときの申請書には、施行規則第86条により、出産の事実を証明する書類(医師・助産師の証明か、出生の届出の記載事項証明。保険者が情報の提供を受けられるときは不要)と、同じ出産について別に申請していないことを示す書類を添えます。書式は保険者ごとに違うので、協会けんぽなら支部、健保組合なら組合のページで確認してください。
出産前に立て替えるお金が心配なときは、協会けんぽには出産費貸付制度があります。出産育児一時金の8割相当額を限度に無利子で借りられ、対象は出産予定日まで1か月以内の人、または妊娠4か月以上で病院に一時的な支払いが必要な人です。健保組合の制度は、組合ごとに確認してください。
50万円より少なかった・多かったとき
直接支払制度を使った場合の差し引きは、次のとおりです。
- 費用が50万円より少ない:その差額が、保険者から本人に支給されます。厚生労働省の実施要綱は、保険者が差額の支給申請ができる旨を、支給決定通知書に併記するなどして知らせると定めています。協会けんぽの例では、費用が40万円なら差額10万円が対象で、出産後概ね3か月後に差額申請書が被保険者あてに送られます。
- 費用が50万円より多い:超えた分を、退院時に病院の窓口で払います。協会けんぽの例では、費用が55万円なら不足の5万円です。実施要綱も、病院は50万円を上回る額に限って退院時に請求すると定めています。
- 加算対象でない出産:基準の額が48.8万円になるので、差し引きもその額で行われます。明細書に「産科医療補償制度の対象分娩です」の文言があるかで確認できます(実施要綱)。
出産費用の内訳は病院ごとに違います。見積りの内訳は、出産予定の病院に確認してください。
出産に関する費用は医療費控除の対象になる場合があります。出産育児一時金は差し引いて計算します。妊婦健診やタクシー代の扱いは出産費用は医療費控除の対象?、産休中にもらえる出産手当金は出産手当金はいくらもらえる?にまとめています。
申請の期限・退職後・夫婦の重複
- 期限は2年:健康保険法第193条は、保険給付を受ける権利は、行使できる時から2年で時効により消滅すると定めています。厚生労働省は、出産日の翌日から2年以内としています。直接支払制度の合意文書は、病院が出産日から最低2年保管するとされています(実施要綱)。
- 退職した場合:出産した時点で加入している保険者に申請します。退職後6か月以内の出産なら、以前の保険者を選ぶこともできます。ただし、以前の保険者に1年以上継続して加入していたことが必要です(厚生労働省のQ&A、法第106条)。協会けんぽは、任意継続の期間は1年以上に数えないとしています。
- 同じ出産で二重には受け取れない:協会けんぽは、同じ出産に対する支給は1回のみで、資格喪失後の出産で複数の保険者が対象になっても、重複しては受け取れないとしています。夫婦とも会社員でも同じです。
- 資格喪失後に被扶養者だった家族が出産した場合:家族出産育児一時金は支給されません(協会けんぽ)。
- 海外で出産した場合:出産した時点で有効な加入資格があれば、加入している保険者に申請できます(厚生労働省のQ&A)。
国民健康保険など会社の健康保険以外の場合も、厚生労働省は公的医療保険の加入者を対象としています。この記事は、会社員の健康保険(協会けんぽ・健保組合)の案内を中心に書いています。
健保組合の付加金
協会けんぽの金額は法定の額ですが、健康保険組合は、規約で定めて付加給付を上乗せできます(健康保険法第53条)。出産の付加金を載せている組合のページは、次のとおりです。
| 健保組合 | 付加金 | 注意点 |
|---|---|---|
| 関東ITソフトウェア | 1児につき9万円(本人・家族とも) | 令和5年4月1日以降の出産。資格喪失後の出産は対象外 |
| 東京化粧品 | 3万円(本人・家族とも) | 直接支払制度を使っても、付加給付の申請は別に必要 |
| 三菱電機・関東百貨店・東京薬業 | 出産のページには記載が見当たらない | 付加金がないとは限りません。給付の一覧や規約で確認 |
出典:各健康保険組合の公式ページ(2026年10月3日確認)。上の組合は例で、加入している組合の額とは限りません。
自分の健保組合の付加金は、組合の「給付」「出産したとき」のページか、規約で探せます。付加給付の種類や探し方の全体は付加給付とはで整理しています。
出産費用の全国平均
厚生労働省保険局が直接支払制度の請求データから集計した、正常分娩の出産費用(妊婦合計負担額から室料差額・産科医療補償制度掛金・その他を除いた額)の全国平均は、令和5年度が506,540円、令和6年度上半期(令和6年4〜9月請求)が517,952円です。出典は、同省の「出産費用の状況等について」(令和6年11月13日の検討会資料)です。差額ベッド代などは含まない平均で、病院や地域で金額は違います。都道府県別の平均は出産費用の平均(都道府県別)にあります。
よくある質問
Q. 出産費用が45万円だったら、5万円はもらえますか?
A. 直接支払制度を使った場合は、一時金の50万円と実際の費用の差額が、保険者から本人に支給されます。厚生労働省の直接支払制度実施要綱は、病院が請求した代理受取額が50万円(加算対象出産でない場合は48万8千円)を下回るとき、その差額を被保険者等に支払うと定めています。協会けんぽは、出産後概ね3か月後に差額申請書を被保険者あてに送ると案内しています。健保組合は、差額の申請が別途必要としているところもあります。
Q. 双子の場合は、50万円が2人分ですか?
A. 協会けんぽの案内では、多胎児の場合は胎児数分が支給されます。1児につき50万円なので、双子なら100万円です。東京化粧品健康保険組合のページも「多胎児の場合は人数分」と書いています。
Q. 死産や流産でも、出産育児一時金は出ますか?
A. 協会けんぽの案内では、妊娠85日(4か月)以降の生産(早産)、死産(流産)、人工妊娠中絶が該当します。厚生労働省も、妊娠4か月(85日)以上の出産であることを支給要件にしています。個別に当てはまるかは、加入している保険者に確認してください。
Q. 夫婦ともに会社員です。どちらの保険からももらえますか?
A. 同じ出産に対して、出産育児一時金を二重に受け取ることはできません。健康保険法施行規則第86条第2項第2号は、申請書に、同一の出産について別途申請していないことを示す書類を添えるよう定めています。どちらの保険者に申請するかは、それぞれの保険者に確認してください。
Q. 申請を忘れていて、出産から2年以上たちました。
A. 健康保険法第193条は、保険給付を受ける権利は、行使できる時から2年で時効により消滅すると定めています。厚生労働省は、申請期限を出産日の翌日から2年以内としています。直接支払制度を使った出産で差額が出る場合も、差額の申請は保険者への請求なので、期限の考え方は同じです。心当たりがあれば、早めに保険者に問い合わせてください。
Q. 直接支払制度を使わなかったら、どうなりますか?
A. 病院の窓口でいったん出産費用の全額を支払い、後から保険者へ出産育児一時金を申請します(厚生労働省の「償還払い制度」)。東京化粧品健康保険組合は、直接支払制度を使わずに後日申請する場合は、制度を利用しない旨の合意文書が必要としています。立て替える金額が大きくなるので、直接支払制度か受取代理制度を使える病院かを、出産予定の病院に先に聞いておくと安心です。
参考・出典
- e-Gov法令検索 健康保険法(第53条・第101条・第106条・第114条・第193条)・健康保険法施行令(第36条)・健康保険法施行規則(第86条・第97条)
- 協会けんぽ 出産育児一時金
- 厚生労働省 出産育児一時金等について・直接支払制度実施要綱
- 厚生労働省保険局 出産費用の状況等について(令和6年11月13日・検討会資料)
- 関東ITソフトウェア健康保険組合 保険給付一覧・東京化粧品健康保険組合 出産したとき
※健康保険法・施行令・施行規則と、協会けんぽ・厚生労働省・各健康保険組合の案内に書かれている範囲の整理です。実際に受け取れる額と手続きは、加入している保険者と出産する病院で異なります。保険者と病院に確認してください。